色に隠された謎 ― 緑色の秘密 ―

緑色を使うときは、気をつけろ。

以前、お世話になった大学教授から、「緑色を使うときは、気をつけたほうがいい」と言われたことがありました。その意味が分からず、ずっと気になっていました。「緑色には、何か特別な意味や理由があるのか?」みどり色に隠された謎について、調べました。

自然。植物。健康。安心。環境。エコロジー。オーガニック。「ECO」って書いてあるパッケージ、だいたい緑色が選ばれている。何も説明していないのに、たしかに緑色を見ただけで「なんか自然にやさしそう」「健康によさそう」と思ってしまう。

実際に「緑色」は、その色を見ただけで「健康的」「環境にやさしい」「サステナブル」といった認識が高くなることが、複数の研究で報告されています。先入観が先に立つ色として、イメージが先行してしまう。だから、デザインにおいて「みどりいろ」を使うときは、慎重にしなければならない色だったんです。


人は、緑をどう見てきたのか。

緑は、決して珍しい色ではありません。木の葉、草原、野菜、苔。外に出れば、私たちのまわりにはたくさんの緑があります。植物が緑に見えるのは、葉緑素が主に赤や青の光を吸収し、緑付近の光を比較的よく反射しているから。そして人間の目も、緑付近の波長に対して高い感度を持っています。

緑は、大昔からずっと、私たちのすぐそばにあった色なのに、色として認識され始めたのは、ずっと後だったんです。長い月日をかけて、ここからここまでが「緑色」と定義され、それぞれの意味を与えてきたのです。


昔は「みどり色」がなかった。

昔の日本には、緑色という認識がなかったそうです。古代の日本語には「みどり」という言葉自体は存在したものの、色の分類としては「青」の中に含まれる一部として扱われていました。

日本では飛鳥・奈良時代、独立した色として認識されていたのは「赤・黒・白・青」の4色だけだったそうです。緑は独立した色ではなく、「青」の中に包み込まれていたのです。

みどりなのに青信号?

今でも信号機を「青信号」と呼んだり、青りんごや青のりと言ったりしているのは、その名残り。日本では本来「緑」と「青」の区別が曖昧で、緑色のものを「青」と呼ぶ文化が、今でも深く根付いているのです。「青葉」や「青りんご」をはじめ、実物は緑色なのに「青信号」や「青汁」という言葉が自然と定着したのも、こうした背景があるためだそうです。

まだ熟していない果実の緑という様子から、「まだ青い」とは、「経験が浅く未熟である」「若くて考えや行動が浅はかである」という意味にも使われています。くだものや野菜が成熟しておらず、青くて硬い・酸っぱい状態を人間の成長に例えた表現です。

人気グループ「Mrs. GREEN APPLE」のバンド名の由来も、赤色に熟す前の「青りんご」を指していて、「いつまでも初心を忘れないよう、活動を続けていきたい」という想いが込められているそうです。直訳すると「ミセス・青リンゴ」。まさに「青と緑」の曖昧な使い方が象徴されているようです。


「緑=エコ」は、本当にそうなのか?

現在、みどり色はすっかり「環境やエコロジーの代表色」になりました。サステナブルを始め、再生可能エネルギーや環境保護、自然派の商品の定番の色であり、Greenそのものが「環境に配慮した」という意味で普通に使われています。

緑という色に「環境やエコロジー」が、最初から備わっていたのではなく、20世紀後半から広がった環境保護の考え方が、植物、森林、自然というイメージに重なり、「緑 → 自然 → 環境 → エコ」という連想が、じわじわつくられていった。それにより「緑=エコ」が定着した。検証すると、どうやら人間が後からこじ付けた説のようです。

そして、その意味があまりに強くなった結果、商品を緑色にするだけで「環境によさそう」に見えてしまう。緑色は、この強烈な先入観によって、イメージが先行してしまう。だから、「緑」を使う際は、こうした固定観念に留意する必要がある。大学教授の「緑色をつかう時は、気をつけろ」の助言は、きっとこのイメージが先行してしまうことへの指摘だったと思われます。


ブランドが作り出す色と世界観

Starbucksという「新しい色」。

独自の緑をテーマカラーにしているブランドといえば、世界最大手のスターバックス。でも、スターバックスのロゴを見て、「自然」「エコロジー」「健康」を思い浮かべる人は、ほとんどいません。スターバックスの色(#006241)」は、「緑色」の常識を覆し、ブランドとしての世界観が、強烈に焼き付くようになりました。

調べてみると、スターバックスは最初から緑だったわけではなかったらしい。1971年、シアトルで誕生した当時のロゴは茶色でした。創業した当時のスターバックスは、カフェではなく、焙煎したコーヒー豆や機器を売る専門店だったんです。スターバックスの社員だったハワード・シュルツが、スターバックスを買収し、緑のロゴへと移り変わっていきました。この緑には、新鮮さスピード感を象徴する意味が込められているそうです。

それから約40年。世界中の店舗、看板、カップ、商品、そして広告で、あの緑が繰り返し使われてきました。最初は、スターバックスが「緑色」を選んだところから始まり、そこから長い時間をかけて、店の空気、まったり読書時間、パソコンを広げた仕事空間、ロゴ入りカップを手にしたあの会話。それぞれの記憶が重ねられていくことで、「スターバックスという新しい世界観」が確立されてきたのです。

あのマークと色を見ても、エコロジーや自然を全く連想しません。長い歳月を経て、スターバックスのブランドカラーとして塗り替えられた。色はブランドに従属し、その世界観を宿すようになる。常識を塗り替え、色そのものに新しい意味を与えてしまう。それこそが、ブランドの真の力だと思います。


ティファニーが、色に宿す世界観。

また、ティファニーも色そのものをブランドにした代表例です。あの独特の青緑色は「ティファニー ブルー®」と呼ばれ、1845年に発行された最初のカタログ「Blue Book」の表紙にも採用されました。

なぜこの色が選ばれたのか、正確な理由は記録として残っていません。当時、ターコイズが宝飾品として人気を博していたこととの関連も指摘されていますが、断定には至っていません。それから長い年月を経て、ジュエリーを収める「ティファニー ブルー ボックス®」などに繰り返し使用されることで、ブランドを象徴する色として確立していきました。

今ではあの色を見て、「青と緑の中間色」と思うより先に、「ティファニーカラー(#0ABAB5)」と感じる人も多いはずです。さらに調べると、Tiffany Blue®は商標として保護され、Pantoneと共同で「1837 Blue」というカスタムカラーも設定されていました。「1837」はティファニーの創業年。もはや色がブランドを飾っているのではないのです。

スターバックスの緑と同じように、ティファニーもまた、長い年月をかけて「この色にしかない世界観」をつくったブランドのひとつです。色を用いたロゴやコンセプトを宿したブランドが、長い年月を経て、色そのものに世界観を持たせてしまう。その結果、色の先入観まで書き換えてしまうなんて、凄いことですよね。


色の不思議。

色って、ほんとうに不思議です。 固定概念や世界観、そして記憶や思い出が呼び起こされる。
あなたは、緑色から、何を連想するでしょうか?

夏休みに遊んだ山や木々の風景。幼いころに見たカエル。仕事帰りに飲んだスターバックスのカップ。ティファニーの紙袋を見ると、いつかのクリスマスが蘇る。心に浮かぶ景色は人それぞれ。色そのものを見ているだけでなくて、その色の向こう側にある記憶や、自分だけの思い出を重ね合わせて見ることもある。

色って、不思議ですよね。

色の向こう側に、長い時間とそれぞれの物語が、眠っているような気がします。

お読みいただきありがとうございました。
MITSUYO NAKATA.