危うし、Adobe。その変革と未来

Adobeの歴史

https://www.adobe.com/jp

Adobeは、デザイン・写真・動画・Web・文書制作などのソフトウェアを開発・提供している世界的なアメリカのIT企業です。クリエイティブ分野における業界標準ツールを多数抱えています。わたしが、Webの仕事をし始めた頃は、ソフトウェアはすべて、CD-ROMからインストールする時代でした。デザインの仕事をするためには、IllustratorとPhotoshopは必須のツールであり、世界中のクリエイターたちは皆、Adobe社のソフトウェアを利用していました。

CD-ROMをパソコンにセットし、シリアルナンバーを入力してインストールする。あのずっしりとした箱を手にしたときの高揚感を覚えている人も多いでしょう。

1999年
Adobe Publishing Collectionが、最初の日本語版として発売されました。初めてAdobeを買ったときのことは、よく覚えています。20万円くらいしていて、本気で勉強する覚悟がないと買えないものでした。


Creative Cloud

Adobeは、その後、買い切り版から「Creative Suite」を経て、サブスク化へ舵を切りました。現在の「Creative Cloud Pro」は20以上のアプリとAI機能が使え、年間約10.9万円(月額9,080円)です。プロには必要な投資ですが、これからデザインを学ぶ学生にとっては、少しハードルの高い金額と言えます。


2016年 Figmaの登場。


正式リリースされたデザインツール「Figma」の台頭により「Adobe帝国」が崩れ始める第一波が訪れます。Figmaは、Webブラウザ上で動作し、複数のメンバーがリアルタイムで同時にデザインを編集できる革新的なコラボレーション機能を備えていました。従来のAdobe製品中心のワークフローを根底から変えたFigmaは、Web・UI/UXデザインの現場で爆発的なシェアを獲得していきます。Adobeも競合ツール「Adobe XD」で対抗したものの、Figmaの勢いを止めることはできず、Web・UI/UXデザインの現場では、Figmaが急速に存在感を高めていきました。

簡単に合併できない時代に。

2022年
AdobeはFigmaを約200億ドルで買収すると発表します。しかし、規制当局の承認を得る明確な道筋がないとして、2023年12月に買収を断念。AdobeはFigmaに10億ドルの契約解除料を支払いました。かつては、強い競合企業を買収することで事業領域を拡大する戦略もありましたが、近年は、巨大企業同士のM&Aにおいて、市場競争への影響が厳しく審査されるようになりました。市場支配力が巨大になればなるほど、競争が失われないかを検証されるようになり、簡単に買収することができなくなったのです。


2024年 Canva+Affinity

Canva
オーストラリア発の「Canva」は、豊富なテンプレートと直感的な操作で、専門知識のない初心者でもSNS画像やプレゼン資料を簡単に作れるオンラインデザインツールです。世界中で爆発的なシェアを拡大してきました。

Affinity
イギリスのSerif社が手がけてきたプロのクリエイター向け高度グラフィックソフトAffinityが登場。Photoshopに匹敵する写真編集、Illustratorのようなベクターデザイン、InDesignにあたるページレイアウト機能を備え、Adobeのサブスクリプション戦略に対抗する「買い切り型」の本格派ツールとして、多くのプロから根強い支持を獲得していました。

2025年10月、Canvaが傘下に収めた「Affinity」を完全無料化したことで、業界には大きな第二波が訪れました。そして2026年、Canvaはプロ向けクリエイティブ領域へと着実にその勢力を拡大しています。「印刷データを作るならIllustrator」という、長年業界に根付いていた絶対的な常識さえも、いまや揺らぎ始めようとしています。


危うし、Adobe

Adobeは、プロのクリエイターがゼロから自分で作るためのツールに対し、Canvaは誰でも作れるツールになっているため、テンプレート・素材・共同編集やAIなどが豊富に組み込まれています。教育の現場でも、近年、プレゼン資料は、Canvaが多く使われるようになりました。

Adobeが直面している変化は、Illustrator VS Affinityという単純なソフト競争だけではないと思います。FigmaをはじめとするCanva、Affinity、そして生成AI。加えてブラウザベースの制作環境によって、「1から自分の手で作る」という制作工程そのものが変化してきているのではないでしょうか。

CanvaがAffinityを抱えて、プロ領域へ迫り、AdobeはExpressやFireflyで、一般・AI領域へ広がりを見せ、FigmaもWeb・UIだけでは収まらなくなっている。長年Adobe一択だった時代が、終わろうとしているのかもしれません。


競合の必要性

CanvaやFigmaは比較的新しい時代の前提から設計できますが、Adobeには40年以上の歴史があり、世界中の制作会社、印刷会社、映像会社、広告会社、教育機関などがAdobe中心のワークフローを組んでいるので、過去に作った「常識」とも戦わなければならないのでしょう。

長く成功した企業ほど、変わることが難しい。でも、「守り」だけでは戦えない。今まで壊せなかった常識を覆す存在こそが、「競合他社」かもしれません。


使わなくなったAdobe製品

わたし自身、長年Adobeを使っていますが、すべての製品を使い続けているわけではありません。その一つが、Dreamweaverです。現在は、全く使っていません。今やコードを書くのは、「VS Code」が一強でしょう。

VS Code

VS Codeは、Microsoftが提供している完全無料の高機能コードエディタです。2018年から2019年にかけて、VS Codeは世界中の開発者アンケートで圧倒的1位を獲得し、事実上の標準エディタとしての立場を確立しました。決定打となったのは、JavaScriptやTypeScriptとの親和性の高さ、強力なコード補完機能、そしてMicrosoftによる圧倒的な開発速度とアップデートの頻度です。現在、全世界のエンジニア・クリエイターから最も使われている業界標準ツールとなっています。


手放す勇気

Adobeは40年以上にわたり、プロの多様なニーズに応えながら機能を磨き上げてきました。他を寄せ付けない圧倒的な高機能こそが最大の強みでしたが、時代の変化とともに「軽い・すぐ使える・スムーズに共有できる」という点が、ツール選びの新たな重要基準になりつつあります。

長年うまくいっていた仕事のやり方を、手放すことって、そう簡単じゃない。過去に成功した人ほど、変化を受け入れるのは容易ではありませんが、FigmaやCanvaが押し寄せる変化の波は、止められないと思います。

どんなことでもそうですが、手元にあるものを手放すって、勇気がいることと思うんです。けれど、変化を受け入れ、前に進むためには、時に手放す覚悟が必要なのかもしれません。

Adobeは、30年近くわたしの仕事を支えてくれました。Adobeの歴史は、わたしの歴史でもあります。まだまだ手放せませんが、これからAdobeがどう変わっていくのか。見守っていきたいですね。

お読みいただきありがとうございました。
MITSUYO NAKATA.